新しいNISA(少額投資非課税制度)は2024年から制度が刷新され、これまでの一般NISA・つみたてNISA・ジュニアNISAといった複雑な区分が一本化されました。新NISAでは「積立投資枠」と「成長投資枠」という二つの投資枠が設けられ、より長期的に非課税投資を利用できるようになっています。具体的には、積立投資枠は年間120万円まで、成長投資枠は年間240万円まで利用可能で、合計で年間360万円まで非課税で投資ができる仕組みです。しかも非課税保有限度額は1800万円と大幅に拡充され、個人が長期にわたって資産形成を行うために非常に有利な制度になっています。
このうち「積立投資枠」は、金融庁が認定した低コストで長期投資に向いた投資信託を対象としています。たとえば、S\&P500連動型や全世界株式(オールカントリー)に投資するような、インデックス型かつ信託報酬が低い商品です。これは、いわば「王道の積立投資」に資金を振り分けてもらうための枠であり、初心者を含む一般投資家が安心して利用できるように設計されています。
一方で「成長投資枠」は、上場株式やETF、さらに多様な投資信託など、より幅広い商品が対象となっています。表向きは「幅広い投資機会を提供し、成長企業に投資できるようにする」とされていますが、その背景には証券業界側の事情があることも否めません。つまり、証券会社や銀行が販売しているアクティブファンドやテーマ型投信といった、信託報酬や販売手数料が高い商品を売りやすくするために、この「成長投資枠」が設けられた面があるということです。実際、積立投資枠の対象商品は金融庁の厳しい基準をクリアした低コスト商品に限られているため、証券会社にとっては販売手数料や運用報酬のうまみが少ないのです。そこで「成長投資枠」という名目で、より自由度の高い枠を用意し、そこに高コスト商品を混ぜ込む余地を残したとも解釈できます。
もちろん、投資家の中には成長投資枠を使って個別株やETFに投資し、リスクを取ってリターンを狙いたい人もいるでしょう。しかし、投資に不慣れな初心者や、長期の資産形成を目的とする大多数の人にとっては、証券会社が勧めてくる手数料の高い商品に飛びつくことは、資産形成の観点から見ればむしろマイナスになりかねません。なぜなら、投資信託のコストは長期になるほど雪だるま式に効いてきて、結果として運用成果を大きく削ってしまうからです。
ここで強調したいのは、「積立投資枠」と「成長投資枠」というラベルの違いは、一般の投資家にとって本質的ではないという点です。制度上は別々の枠に見えても、どちらの枠を使うにせよ、投資すべき対象は極めてシンプルです。つまり、低コストで広く分散されたインデックスファンド――代表的なものはS\&P500連動型か、あるいは全世界株式(オールカントリー)連動型の投資信託です。これらの商品は、積立投資枠にも成長投資枠にも両方で購入可能であり、余計なことを考えずに「どちらの枠でも同じファンドを買えばよい」と割り切るのが賢明です。
多くの投資初心者は「積立投資枠ではS\&P500を買って、成長投資枠では別の商品を選ばなければならないのでは」と誤解しがちです。しかし、そんな必要はまったくありません。むしろ成長投資枠で証券会社に勧められる高コストのアクティブファンドを買うことこそ、資産形成における最大の落とし穴といえるでしょう。結論としては、積立投資枠でも成長投資枠でも迷わず、S\&P500またはオールカントリーのような低コストインデックスファンドを買い続けるのが、最も合理的で再現性の高い投資方法です。
新NISAは、日本人が長期・積立・分散という投資の基本に取り組むための制度です。しかしその一方で、制度設計には証券業界の思惑が色濃く反映されている側面もあります。私たち一般の投資家が取るべき態度は、その背景を冷静に理解しつつ、シンプルに本質を押さえることです。つまり、「枠の違いに惑わされず、低コストで分散されたインデックスファンドを淡々と買い続ける」――これに尽きるのです。
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