【投資は慎重に】リスクフリーレートの話

投資

「みんなで大家さん」という不動産小口化商品で現在その分配金が遅延し、ついには訴訟にまで発展していることが社会的に大きな話題となっています。最も責任を負うべきはもちろん運営主体である組織であり、投資家に対して十分なリスク説明を行わず、あたかも安全で安定した収益が保証されているかのような印象を与えてきた点は重く問われるべきでしょう。しかし一方で、投資家側にも「安易に投資を決断してしまった責任」が存在することは否めません。

投資の世界には「リスクフリーレート」という概念があります。これは、理論的に元本毀損のリスクをほぼ伴わずに得られる利率を意味し、日本では代表的に国債の利回りなどが該当します。例えば日本国債の10年物利回りが1%前後であれば、それが実質的なリスクフリーレートの目安となります。つまり、確実性をもって得られる収益率はこの水準に留まるということです。そして、この水準を超える利回りを得ようとする場合には、必ず追加的なリスク――すなわち損失を被る可能性――を受け入れなければなりません。

問題は、多くの投資家がこの基本原則を十分に理解せず、「年利5%が確実に支払われる」といった甘い言葉に容易に惹かれてしまうことです。冷静に考えれば、国が保証する国債ですら1%しか利回りが得られない環境で、同じ「確実さ」をうたいながら5%を提供できるはずがありません。その差分となる4%は、何らかのリスクの裏返しであるはずです。リスクが高いからこそ高利回りが提示されているのです。

したがって、投資家一人ひとりが日常的に「いまのリスクフリーレートはいくらか」を把握しておくことが非常に重要です。もしその水準を意識していれば、企業や商品提供者が提示する利回りの妥当性を直感的に判断できますし、不自然に高い数字には必ず裏があると気づけます。逆にその知識がなければ、「銀行預金よりはるかにお得」といった宣伝文句に安易に飛びつき、結果的に元本すら毀損してしまう危険性があります。

今回の「みんなで大家さん」の件は、運営側の責任が極めて大きいのは言うまでもありません。しかし同時に、投資家がリスクとリターンの関係を理解せず、「高利回りなのに安全」というあり得ない幻想を信じてしまったことも事態を悪化させました。投資においては「リスクを取らずに高リターンはあり得ない」という単純な真理を常に心に留める必要があります。リスクフリーレートを基準に物事を考える習慣を身につけることで、過剰に甘い提案に騙されることなく、より健全な投資判断ができるはずです。

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